「ここにいてはいけない」—— そう思った瞬間、明美は四国へ向かった。
思いつきとは突発ではなく、かつて温めていたものが孵化しようとしているだけ。
それは、自分に対する合図だった。
遍路とは、廻ることが目的ではない。
ブラックボックス化した頭を整理し、なにかしらのアウトプットが導き出せれば、それで成功といえる。
三十路を目前に仕事を辞めた元・管理栄養士。「ここにいてはいけない」の直感ひとつで、徳島から歩き遍路をはじめる。考えごとが多い。
一番札所で出会った四歳下の道連れ。よく食べ、よく喋る「歩くラジオ」。人懐っこいが、歩く理由は自分からは言わない。
立冬間近の11月、この物語の主人公・阿刀明美(あとうあけみ)は、リムジンバスの中にいた。リムジンといっても奮発したからではない。四国は徳島、空港から、
「駅に行きたい」
といえば、乗せられた。
年齢、29歳。あと数日で三十路になる。容姿は人並みで決して美人ではない。が、不器量というわけでもなく、ちょっと洒落っ気を出せば可愛い方だと自分では思っている。
職業、無職。管理栄養士をしていたが、辞めてしまった。
辞めた理由は、単純だ。疲れたのだ。
何に疲れたのか――。
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